設備設計一級建築士とは?試験内容と取得後のキャリアについて解説

設備設計一級建築士とは、一級建築士に建築設備士の専門知識と実務能力を加えた上位資格であり、設備設計においては国内最高峰の資格です。

マンションやビジネスホテルの建設コストを抑えるために一級建築士が構造計算書を改ざんした、平成17年に世間を賑わせた「耐震偽装問題」の反省を踏まえ、平成18年に構造設計一級建築士と同時に設備設計一級建築士制度が創設されました。

この制度により、階数が3以上かつ床面積の合計が5,000㎡を超える建築物の設備設計については、設備設計一級建築士による関与が義務付けられ、記名が無いと建築確認申請が提出できないようになっています。

本記事では、設備設計一級建築士の概要から建築設備士との違い、資格取得のポイント、将来性などを詳しく解説します。

設備設計でのキャリアアップを目指す方には大変有益な情報ですので、ぜひ最後までお読みください。

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設備設計一級建築士とは?

設備設計一級建築士とは、一級建築士の資格を持つ人が、建築整備士の専門知識と実務能力を加えた上位資格のことです。設備設計においては国内最高峰の資格といえます。

受験資格を得るのも難しく、一級建築士として5年以上の設備設計にかかわる経験が必要であり、さらに講習会の受講も必要です。

非常に取得難易度の高い資格ですが、本資格は2006年の建築士法の改正(※)にともなって誕生しており、比較的歴史が浅いといえます。

本資格が新設された背景としては、2005年に発生した「耐震偽装問題」があります。耐震偽装問題の裏では、建築業界の根本的な問題が関係しているのです。一昔前は、建物設計は意匠設計事務所が下請けに丸投げするケースが多く見受けられました。そのため、下請けの設計士が意匠設計事務所からの圧力を受け、偽装することがあったのです。

2005年の耐震偽装問題を機に専門性の高い分野は専門の設計士が行うべきという考えから、設備設計一級建築士の資格が生まれました。

国土交通省|建築士法等の一部を改正する法律案について

設備設計一級建築士の仕事内容

設備設計一級建築士は、言わば「設備設計のエキスパート」です。

一級建築士の資格がベースであるため、しっかりとした知識と経験の土台があります。建築の意匠や構造にも精通しており、他分野との連携がスムーズであることが強みと言えます。

大規模建築物の電気設備設計や機械設備設計について技術指導者としての役割が期待され、重大な責任があります。

設備設計者としては電気設備と機械設備の基本設計および実施設計をすること、施工現場においては設備工事の技術指導と設計図面照合をする設計監理が主な仕事になります。

その他にも、建物の省エネルギー適合性判定をする適合性判定員など、高度な専門知識と経験が要求される業務において設備設計一級建築士が活躍しています。

設備設計一級建築士と建築設備士の違い

設備設計一級建築士とよく混同されるのが、建築設備士や一級建築士です。それぞれの違いをまとめたので、確認してみてください。

資格担当可能な業務と範囲
設備設計一級建築士・あらゆる建築物の設計
・3階以上かつ床面積の合計5,000㎡超えの建築物における設備設計
建築設備士・建築設備の設計
・工事監理に関して建築士への助言
・延床面積2,000㎡超えの建築物の建築設備に関する設計または工事監理を行い場合には、建築設備士が意見できる(努力義務)
一級建築士・規模に関わらず設計可能
・設備設計に関する知識はないため、設備設計はできない

階数が3以上かつ床面積の合計が5,000㎡を超える建築物の設備設計は、設備設計一級建築士の設計関与が義務付けられており、設計図面と確認申請書に設備設計一級建築士の記名が必要となります。

設備の設計・監理に関する資格のまとめ

将来的に設備設計一級建築士へのステップアップが考えられる関連資格について、下記のとおりまとめてみましたので参考にしてください。

建築設計系

建築士(一級・二級)

建築施工管理系

建築施工管理技士(一級・二級)

設備全般

建築設備士

電気系

電気工事施工管理技士(一級・二級)

・電気主任技術者(第一種・第二種・第三種)

機械設備系

管工事施工管理技士(一級・二級)

空調設備士(空気調和・衛生工学会設備士)

防災設備系

消防設備士(甲種特類・甲種・乙種)

設備設計一級建築士の試験について

設備設計一級建築士になるためには、試験に合格する必要があります。

本章では、試験に関する受験資格や登録講習、合格率などについて詳しく解説します。これから資格取得を検討している人は、ぜひ参考にしてください。

設備設計一級建築士の受験資格

設備設計一級建築士の登録講習を受講するには、一級建築士を取得後に5年以上の設備設計の業務経験が必要です。

認められる業務経験としては、設備設計の業務と下記の内容が該当します。

  1. 建築設備に関する工事監理の業務(※1)
  2. 消防同意に関する業務
  3. 建築設備士としての建築設備に関する業務
    (一級建築士となる前に建築設備士であった期間の業務も含まれます)
  4. 建築確認の建築設備に関する審査及びその補助業務

※1:工事監理の「補助業務」については、平成25年10月以降に携わったものは業務経験として認められません。

設備設計一級建築士の登録講習と試験

設備設計一級建築士の登録講習は、例年6月中旬頃に受講申し込みを行い、9月下旬から10月上旬にかけて3日間に渡って講義が実施されます。

講義は全国7会場(札幌市・仙台市・東京都・名古屋市・大阪府・広島市・福岡市)での受講が基本ですが、オンデマンド配信による講義動画の視聴を選択することも可能です。

修了考査は必ず会場受験となり、11月下旬に1日で記述式および製図による試験が実施されます。修了考査の合格発表は、年明けの1月下旬となります。

登録講習

設備設計一級建築士の登録講習は、その保有する資格と過去の考査結果により4つの区分に分かれ、それぞれ受講する内容が違います。

登録講習の内容は下記のとおりです。

【法適合確認】〉

【設計製図】

申込区分受講資格受講区分
一級建築士資格のみ保有全科目受講
過去2年の修了考査において「設計製図」に合格している法適合確認のみ受講
過去2年の修了考査において「法適合確認」に合格している設計製図のみ受講
一級建築士かつ 建築設備士資格保有法適合確認のみ受講

修了考査

設備設計一級建築士登録講習を受講した後、記述式および製図によって実施される修了考査を受験します。

修了考査の内容は下記のとおりです。

【法適合確認】

設備関係規定に関する科目(記述式)

【設計製図】

建築設備に関する科目(記述式および製図)

修了考査は登録講習で学習した範囲から課題が出されます。

試験対策として資格専門学校の講座を受講するという選択肢もありますが、過去問題集を活用した独学が基本となるでしょう。

ここまでの内容を下表にまとめました。

内容申込区分Ⅰ
講義建築設備関係法令免除
建築設備設計総論免除
法適合確認免除
電気設備の設計技術免除免除
空調・換気設備の設計技術免除免除
給排水衛生設備の設計技術免除免除
輸送設備の設計技術免除免除
修了考査法適合確認免除
設計製図免除免除

設備設計一級建築士の難易度

設備設計一級建築士の修了者数は令和5年時点で累計およそ6,300名です。

資格の創設から16年となり、近年は全国で年間100〜200人台の修了者数で推移していますので、非常に難易度が高く希少な資格と言えます。

その難易度の観点からも、先に建築設備士の資格を取得し、修了率の高い「申込区分Ⅳ」で受講申し込みをすることをおすすめします。

申込区分令和3年度令和2年度令和5年度
実受講者数修了率実受講者数修了率実受講者数修了率
修了者数修了者数修了者数
申込区分Ⅰ19447.40%132346.20%11947.90%
926111
申込区分Ⅱ4985.70%90.90%72.20%
421013
申込区分Ⅲ1060.00%2475.00%2185.70%
61818
申込区分Ⅳ15180.80%12187.60%13092.30%
122106120
合計40464.90%28867.70%28872.20%
262262208

参照:公益財団法人建築技術教育普及センター 設備設計一級建築士講習データ

令和5年度の修了率は67.70%になっています。令和3年度は難度が高かったこともあり、前年比に比べると2.8%上昇した形になりました。

令和4年度には、約3%上昇し、令和5年度70%以上の修了率になりました。申込区分Ⅱ以外は、修了率が上がっており、特に申込区分Ⅳの修了率が高いことがわかります。

ただし、申込区分Ⅰの修了率は47.90%で、一級建築士資格の取得者で設備設計の実務を5年以上経験した人でも、合格が簡単ではないことがわかります。

他資格から設備設計一級建築士を目指すルート

設備設計一級建築士になるためには、一級建築士の資格が必須です。一級建築士の受験資格を得るためには、下記の条件を満たす必要があります。

一級建築士試験の受験資格

建築設備士の資格を取得すると、一級建築士試験の受験資格が得られます。

将来的に設備設計一級建築士を目指すのであれば、先述の「申込区分Ⅳ」という有利な条件での受講および修了考査が適用されますので、まずは建築設備士の資格を取得することをおすすめします。

また、下記の設備系資格の取得者は実務経験2年で建築設備士の受験資格が得られます。これらの資格の延長線上にも、設備設計一級建築士になる道筋があると言えます。

設備設計一級建築士の取得ポイント

設備設計一級建築士の資格を取得する際のポイントは、以下の通りです。

  • 申込区分Ⅳで受験する
  • 修了考査をパスするための学習方法を理解する

それぞれ詳しく解説するので、参考にしてください。

申込区分Ⅳでの受験がおすすめ

資格取得の際には、講習を受ける必要があります。講習は申込区分がⅠ〜Ⅴで分かれており、区分によって受講する講義内容が異なります。

なかでもおすすめなのは、申込区分Ⅳでの受験です。

例えば、申込区分Ⅰであれば、必要な講義内容を全て受講しなければならず、講義日数も3日間です。

一方、申込区分Ⅳであれば、講義内容は3つだけで日数も1日で終わります。

さらに講義後にある修了考査では、申込区分Ⅰが午前と午後の2つあるのに対して、申込区分Ⅳは午前だけで済みます。

このように、受講の労力や費用を考えた際に、少ない負担で資格取得まで進むことを考えると、申込区分Ⅳが圧倒的に有利となるのです。

申込区分Ⅳを受講するには、「一級建築士」の資格を保有しており、さらに「建築設備士」の資格も保有している必要があります。

詳しくは、公益財産法人 建築技術教育普及センターの「設備設計一級建築士」をご確認ください。

修了考査をパスするための学習方法

講習後には、修了考査があります。

修了考査をパスするためには、以下のような勉強法がおすすめです。

  • 設備設計一級建築士講習会のテキストを読み込む
  • 過去問をやり込み、傾向の把握と不明点の解消をする

まずは講習会で使うテキストを読み込みましょう。講習会テキストのなかでも、修了考査で出題される法適合確認パートを集中的に読み込むようにします。さまざまな条文がテキストに登場するので、どのページにどのような条文が記載されているかをしっかり把握しておきます。

過去問を入手し、傾向の把握と対策をするのは非常に効果的です。ただし、設備設計一級建築士の修了考査に対する問題集は市販されておらず、主催である建築技術教育普及センターが、前年度分のみ問題を配っています

テキストの読み込みと前年度の修了考査の問題を手に入れて、試験に臨みましょう。

設備設計一級建築士の求人と年収

設備設計一級建築士の年収と将来性について詳しく解説します。

他業界・他業種からの転職を検討している人は、参考にしてみてください。

設備設計一級建築士の求人

設備設計一級建築士は、一定規模以上の大規模建築物に関与義務があるため、大きなニーズがあります。

転職サイトやエージェントを介してのマッチングは比較的容易で、多くの選択肢のなかから自分の希望に合う企業を選べると言って良いでしょう。

参考に、令和4年8月の厚生労働省の調査では「建築・土木・測量技術者」が5.61倍となっています。全職業合計で1.32倍ですので、その数値の高さが際立っています。

参照:政府統計 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)

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設備設計一級建築士の年収

設備設計一級建築士は、厚労省の賃金調査では「建築技術者」に分類されます。

その資格の希少性から高い給与水準が想定され、大手ゼネコンや設計事務所であれば1,000万円を超える年収も珍しくありません。

「建築技術者」(一般)
従業員10人以上の企業従業員1000人以上の企業全産業合計
年収5,861.5千円6,993.7千円4,893.1千円
平均年齢42.6歳42.1歳43.4歳
平均勤続年数12.5年14.4年12.3年
月間所定内実労働時間数170時間165時間165時間
月間超過実労働時間数17時間24時間11時間
年間賞与額1,138.3千円1575.7千円875.5千円

参照:政府統計 賃金構造基本統計調査

設備設計一級建築士の将来性

設備設計一級建築士は、設備設計の最高峰資格として独占領域もあるため、将来的にもその必要性が薄れることは無いでしょう。

近年は省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入、カーボンニュートラル等の環境設計の分野がトレンドとなっています。

政府が推進するZEB(ゼブ:ネット・ゼロエネルギー・ビルディング)(※2)の拡大にも、設備設計一級建築士が省エネ計算や設備構成の計画について指導的な役割を果たすことが期待されています。

また、「省エネルギー適合性判定」制度の対象となる建築物の面積が2021年に従来の2,000㎡以上から300㎡以上に引き下げられ、さらに2025年には全建築物が対象となる法改正も予定されています。

設備設計一級建築士は「省エネルギー性能適合性判定員」となることも期待されており、今後さらに建築の設備設計において技術指導的な役割を果たすことが求められて行くでしょう。

ただし、建築業界の人手不足問題は深刻化しています。特に設備系の職種は人手が足りておらず、若手が不足している状態です。人手不足の原因は、設備系の研究室に進む学生が少ないからです。

設計の仕事は、意匠・構造・設備に分かれますが、設備に人が集まらない分、衣装や構造は人気があります。設備設計のほうが内定がもらいやすいというメリットはあります。

さらに、設備設計一級建築士は、建築士のなかでも、最高峰資格であるため、将来性が薄れることは無いと言えるので、これから建築士を目指す人にとっては、チャンスだと言えるでしょう。

※2 ZEB…消費するエネルギーよりも生産するエネルギーが多くなる建物のこと。具体的には、①建物の気密断熱性能を高める②高効率な機器を導入し冷暖房・換気・給湯・照明のエネルギーを減らす③太陽光発電を始めとする再生可能エネルギーを自家消費に導入する、という3つのステップで実現します。

設備設計一級建築士に向いている人の特徴

設備設計一級建築士に向いている人の特徴として、以下の3つが挙げられます。

  • 自分で何かを作ることが好き
  • 目標に向かって頑張ることができる
  • 柔軟に対応できる

それぞれ詳しく解説します。

自分で何かを作ることが好き

自分で何かを生み出したり、工作やプラモデルのようなもの作りが好きだったりする人は、建築士に向いています。

設計の仕事は設計図を作って終わりではありません。図面を基に建築物の施工がはじまり、完成を見届けて終わりと言えるでしょう。設計から考えると、数年単位の長期に渡ることも珍しくありません。また、完成までには予想外のトラブルが発生することもあります。

そのため、自分で作るということに長期的な時間を要することと、必ずしも順調にいくとは限らないという思考でいなければならないのです。

自分で作ることが好きな人や完成品を見た時にやりがいを感じるタイプの人は、たとえトラブルが発生したとしても、挫けることなく最後までやり遂げられるでしょう。

目標に向かって頑張ることができる

目標に向かって努力できる人は建築に向いています

建築には、答えがありません。建築物を作るうえで重要となる、設計図を作るわけです。そのため、なかなか納得のいく図面ができず壁にぶつかることもあるかもしれません。また、建築の技術やトレンドも日々進化しているので、常に勉強し続ける必要があります。

特に設備設計一級建築士となると、一級建築士や建築設備士の資格が必要になりますし、実務経験が求められます。簡単には取得できない資格だからこそ、目標に向かって地道に努力する力が必要不可欠なのです。

すぐ手の届く場所にある答えや成果を求める人ではなく、自分で考えながらコツコツ積み上げて前に進める人が建築士に向いていると言えるでしょう。

柔軟に対応できる

設備設計は、現場の状況に合わせて柔軟にプランを調整する必要があります。

たとえば、建物の方角や間取り、近隣状況、実際に人が生活をすることをイメージした場合の懸念など。

別の設計ではうまくいった方法が、必ずしもまたうまくいくとは限らないのです。建築物は一つとして同じものがないからこそ、状況に合わせて臨機応変に対応する必要があります。

枠にはまった考え方ではなく、その場の状況に応じて臨機応変に対応できる人や変化を楽しめる人は建築士に向いていると言えるでしょう。

まとめ

ここまで設備設計一級建築士について、仕事内容や資格取得の方法、年収相場などを解説してきました。

設備設計一級建築士は建築設備設計の国内における最高峰の資格取得者として、今後ますます社会的に必要とされる人材です。

政府の掲げる「2050年カーボンニュートラル」の目標達成に向けても、設備設計一級建築士による建築設備の省エネルギー設計は重要な役割を担います。

環境課題を解決する専門家としても、設備設計一級建築士が関わる分野はますます拡大して行くでしょう。

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