高所作業を安全におこなうのに欠かせないフルハーネス。
肩や胸、ももなどを複数のベルトで固定するフルハーネスは、着用が義務化されています。フルハーネスの着用義務がある業務に従事する場合、安全のための特別教育の受講も必要です。
今回は、フルハーネスの着用義務や特別教育について、フルハーネスの選び方などを詳しく解説します。
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目次
フルハーネス着用の義務
法改正により2022年1月2日からフルハーネスの着用が義務化されました。
フルハーネスとは墜落制止用の器具で、これまでの胴ベルト型の安全帯と違い、ベルトの緩みが原因で起こる墜落事故や胸部や腹部の圧迫を防ぐことができるのが特徴です。
6.75m以上の高さで作業をおこなう場合に着用が義務付けられています。6.75mよりも低い場所での作業であれば、着用は義務付けられてはいませんが、墜落事故を防止するためにも、作業する場所の高さに関係なく着用を意識することが大切です。
フルハーネス着用の義務について以下の項目に分けて深掘りしていきます。
- 「安全帯」から「墜落制止器具」に名称変更
- フルハーネス着用義務のある作業
- フルハーネス着用のガイドライン
それぞれ詳しく見ていきましょう。
「安全帯」から「墜落制止用器具」に名称変更
2018年の法改正により、もともと「安全帯」と呼ばれていたものが「墜落制止用器具」に名称が変更されました。
2019年2月1日から経過措置が取られ、2022年1月1日までに完全に着用義務になりました。
法改正の背景には、胴ベルト型の安全帯は、墜落時に内臓の損傷や胸部等の圧迫による危険性が指摘されており、国内で胴ベルト型安全帯の使用による労働災害が確認されていたことがあります。
参照:厚生労働省ホームページ|安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!
フルハーネス着用義務のある作業
フルハーネスを着用することが義務付けられている作業は、以下の通りです。
- 高さ6.75m以上の高さでの作業
- 高さ2m以上の作業床のない場所での作業
- 作業床の端、開口部などで囲いや手すりなどの設置が困難な場所での作業
基本的には、高さが6.75m以上の場所での作業の際に義務付けられているフルハーネスですが、その他にも細かい決まりがあります。
6.75mに満たない高さでの作業であっても、2m以上の高さの作業床のない場所など、安全対策ができない場合はフルハーネスを着用することが必要です。
6.75m以下の場所での作業の場合、フルハーネスでは墜落事故の際に地面に到達する可能性があることから、胴ベルト型安全帯の利用が認められています。
フルハーネスは、胴ベルト型安全帯に比べて安全性が高いことが大きな特徴。作業員の安全を確保するための義務化なので、着用が必要な場所での作業の際には必ず着用しましょう。
フルハーネス着用のガイドライン
厚生労働省によって、フルハーネスの着用のガイドラインが示されています。
このガイドラインの適用範囲は、墜落制止用器具を使用しておこなう作業全般です。
墜落制止用器具の選定基準についてもガイドラインがあります。厚生労働省のガイドラインでは、以下のような選定要件が示されています。
- 墜落制止用器具は、フルハーネス型を原則とすること。ただし、墜落時に着用者が地面に到達するおそれのある場合の対応として、胴ベルト型の使用が認められること。
- 胴ベルト型を使用することが可能な高さの目安は、フルハーネス型を使用した場合の自由落下距離+ショックアブソーバの伸び+1m(=6.75m)以下としなければならないこと。
フルハーネスの特別教育を受講する
フルハーネスの着用が義務化されたことに伴い、フルハーネスを安全に使用するための「フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育」の受講が必要です。
「フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育」の内容について以下の項目に分けて詳しく紹介します。
- 「フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育」の内容
- 講習の受講場所と受講対象者
- 修了証は転職後も有利
項目ごとに詳しく見ていきましょう。
「フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育」の内容
高所作業での墜落事故を防止するために厚生労働省が関係法令を改正し、公布がおこなわれました。これに伴って、墜落および転落による労働災害防止をより一層推進するための「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」が公表され「建設業労働災害防止協会(建災防)」は、「フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育」を実施することとなりました。
「フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育」は、6時間の講座です。講座の具体的な内容と所要期間は以下の通りです。
番号 | 内容 | 所要時間 |
1 | 作業に用いる設備の種類や構造・取扱方法など | 1時間 |
2 | フルハーネス・ランヤードの種類や構造 | 2時間 |
3 | 墜落による労働災害防止措置・落下物に夜危険防止措置など | 1時間 |
4 | 墜落制止器具の装着方法・ランヤードの取付方法や選定方法など | 1時間30分 |
5 | 安全衛生法などの関係法令について | 30分 |
丸1日拘束されてしまうので、受講が難しい場合は、Web講座を受講することもできます。
講習の受講場所と受講対象者
フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育は、建設労働災害防止協会(建災防)や、労働技能講習協会などの団体、Web講座などで受講が可能です。
建災防や労働技能講習協会などの団体での講座は、各都道府県の支部で開催されています。
定められた会場に足を運び、1日かけて6時間の講座を受講します。
受講対象者は、フルハーネス着用義務のある高所作業をする方全員です。ただし、一定の実務経験者は、一部の講座受講が免除される制度があります。
フルハーネス型安全帯の使用経験がある方は、上記表の1.3.4番の講座が免除されます。
さらに、胴ベルト型安全帯の6ヶ月以上の使用経験がある方は1番の講座が免除。ロープ高所作業特別教育受講者および足場の組み立て等特別教育受講者は3番の講座が免除されます。
これらの免除を踏まえた講座のコースが用意されているので、免除できる講座がある場合は申し込み前に確認しておきましょう。
修了証は転職後も有利
フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育を受講すると、修了証が発行されます。この修了証は、定期的な更新などの必要がないため、関係法令の改正等がない場合は、「特別教育」「安全衛生教育」「技能講習受講」の証明書として永続的に使用することができます。
この修了証は、退職や転職をしても有効なので、必要な講座を修了している証である修了証は、転職の際の選考で優遇される可能性が高いのです。
フルハーネス墜落制止用器具の選び方
実際にフルハーネス型の墜落制止用器具を導入しようと思っても、どのような基準で選んだらいいのか、わからないことも多いですよね。
フルハーネス型墜落制止用器具の構造には以下のような厚生労働省が定めている規格があります。
墜落制止用器具の規格第3条
フルハーネス型の墜落制止用器具(以下「フルハーネス型墜落制止器具」という。)は、次に掲げる基準に適合するものでなければならない。
- 墜落を制止するときに、着用者の身体に生ずる荷重を肩、腰部、腿部において、フルハーネスにより適切に支持する構造であること。
- フルハーネスは、着用車に適切に適合させることができること。
- ランヤード(ショックアブソーバを含む)を適切に接続したものであること。
- バックルは、適切に結合でき、外れにくいものであること。
これらの規格に適合したものを選ぶようにしましょう。
フルハーネスの形・サイズを選ぶ
フルハーネスの形は3種類あります。
【X型】
X型は、背面でベルトがクロスしているフルハーネス。身体をしっかりと固定し、安定感があるので、世界的にも多く使用されている定番のフルハーネスです。
【Y型】
後ろから見たベルトの形がY字になっているのがY型のフルハーネスです。
腰回りや胸ベルトに道具が装備できることや、デザインがシンプルで見た目がすっきりしていることから、人気が高いタイプです。しかし、万が一の墜落事故の際に衝撃が1箇所に集中しやすい点には注意が必要です。
【H型】
前から見たベルトの形がHのように見えるのがH型のフルハーネス。墜落制止時に骨盤全体に荷重が分散する作りになっています。
最近はH型を使う方は少なく、X型やY型が主流となっています。
フルハーネスの形が決まったら、次はサイズを選びます。
フルハーネスは、自分の身体にあったサイズのものを着用することが重要です。
メーカーや製品によってもサイズはまちまち。なかなかぴったりのサイズのフルハーネスに出会えないということも少なくありません。
フリーサイズで、自分でベルトを調整するタイプのものもあるので、既製品のサイズではなかなか合うものが見つからないという場合には、検討してみてもいいでしょう。
ランヤードのタイプを選ぶ
ランヤードとは、命綱のこと。フルハーネスの背中がわと構造物とをフックで固定して使用します。
ランヤードには、以下の3つの種類があります。
- ロープ式
- 巻取り式
- 伸縮式
それぞれの特徴をまとめました。
ランヤードの種類 | 特徴 |
ロープ式 | ロープを伸ばしたままのシンプルなランヤード。比較的安く手に入るが、作業中にロープが邪魔だと感じることも。 |
巻取り式 | 巻取り用のレールがついたランヤード。収納できるので邪魔にはならないが、摩擦が多く損傷しやすい。 |
伸縮式 | 蛇腹式に伸縮するタイプのランヤード。軽量で操作しやすい。 |
ランヤードは、さらに1丁がけと2丁がけの2タイプに分けられます。
基本的には、作業中に1本のランヤードが構造物にかかっていればいいので、1丁がけで問題ないことがほとんどです。
ただし作業中の移動時には、どこにもランヤードがかかっていない状態になることもあり、墜落の危険性があります。このような危険を伴うような現場では、2丁がけのランヤードを使用するか、1丁がけのものを2つ使うこともできます。
まとめ
フルハーネスの着用義務について解説しました。
法律の改正により、高所での作業ではフルハーネスの着用が義務付けられています。
さらに、フルハーネスの着用が必要な現場で働く場合には、特別教育を受講する必要があります。
安全に工事現場で作業をおこなうためにも、法律を守り適切な装備を着用しましょう。