
建設現場における主任技術者の存在は、工事の品質や安全性を確保するために欠かせません。建設業法では、建設工事の適正な施工を確保するために、一定の要件を満たす工事現場に主任技術者または監理技術者を配置することが義務付けられています。
しかし実際の現場では、主任技術者が常駐していないケースも見られます。本記事では主任技術者の常駐に関する法的要件や、常駐しないことで生じる問題点について詳しく解説します。建設業に携わる方々にとって、コンプライアンスを守りながら効率的に事業を進めるための参考になれば幸いです。
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目次
主任技術者が常駐しないのはNG?
建設業法において、主任技術者の配置は明確に規定されていますが、「常駐」に関する解釈にはいくつかの条件があります。
まず、公共工事の場合は、原則として主任技術者の常駐が必要です。建設業法第26条第3項では、公共性のある工作物に関する重要な工事において、工事現場ごとに専任の主任技術者を置くことが定められています。
一方、民間工事の場合は、工事の規模によって異なります。請負金額が4,000万円以上(建築一式工事の場合は6,000万円以上)の工事では、主任技術者の専任配置が必要となります。専任とは、その工事現場に常時滞在することが原則です。
しかし、近年は働き方改革の一環として、一定の条件下では「常駐緩和」が認められるようになってきました。例えば、ICT技術を活用したリモート管理や、複数の小規模現場を巡回する形態なども、適切な管理体制が確保できる場合には認められるケースがあります。
ただし、これらの緩和措置があるからといって主任技術者の重要性が減じるわけではありません。工事の品質確保と安全管理の責任者として、適切な形で関与することが必要であり、完全に不在という状態は明らかに法令違反となります。
主任技術者が常駐しないことでのデメリット
主任技術者が現場に常駐しないことで、以下のようなデメリットが考えられます。
- 現場での意思決定の遅延と施工効率の低下
- 技術的指導の不足による施工品質の低下
- 安全管理体制の脆弱化と事故リスクの増加
- 設計変更への対応遅延と追加コストの発生
- 法令違反による行政処分と信用失墜
各デメリットを詳しく解説します。
現場での意思決定の遅延と施工効率の低下
主任技術者が常駐しないと、現場で発生する様々な問題に対して即座に対応することができなくなります。建設現場では予期せぬ事態が日常的に発生するものですが、そのたびに主任技術者に連絡を取り判断を仰ぐ必要があるため、作業の停滞やスケジュールの遅延につながりやすくなります。
例えば、掘削作業中に想定外の地下埋設物が発見された場合、その対応方法は技術的な判断が必要です。主任技術者がその場にいれば即座に適切な指示を出せますが、不在の場合は連絡を取るまでの間、作業が中断することになります。
また、工程間の調整や次の作業への移行判断においても、主任技術者の確認が必要なケースが多く、その都度連絡を取らなければならない状況では、一日の作業効率が大幅に低下することが考えられます。結果として工期の遅延や労務費の増加といったコスト面での不利益も生じやすくなります。
技術的指導の不足による施工品質の低下
主任技術者は単なる管理者ではなく、現場で働く作業員に対する技術的な指導者としての役割も担っています。常駐しないことで、作業員への適切な技術指導や助言が不足し、施工品質の低下を招く恐れがあります。
特に難易度の高い作業や、経験の浅い作業員が担当する工程においては、主任技術者のリアルタイムな指導が品質を左右します。例えば、コンクリート打設時の適切な締固め方法や、鉄筋の配筋状態の確認など、細かな技術的ポイントを現場で指導できないことで、後に手直し工事が必要になるケースも少なくありません。
また、主任技術者が常駐しないと、作業員の技術向上の機会も減少します。日々の作業を通じた技術指導やOJTの場が失われ、中長期的には現場全体の技術力低下につながる可能性もあります。
安全管理体制の脆弱化と事故リスクの増加
建設現場における安全管理は最優先事項ですが、主任技術者の不在はこの体制を弱体化させます。主任技術者は日々の安全パトロールや危険予知活動を主導する立場にあり、その存在自体が作業員の安全意識を高める効果があります。
現場で日常的に行われる朝礼や、KY(危険予知)活動、安全ミーティングなどを主任技術者が主導することで、作業員全体の安全意識が向上します。これらの活動が形骸化したり、十分な指導なく行われたりすると、重大な事故につながるリスクが高まります。
特に、高所作業や重機を使用する危険作業、あるいは新たな工法を採用する場合などは、主任技術者による事前の安全確認と適切な指示が欠かせません。常駐しないことでこれらの確認が不十分になれば、作業員の安全が脅かされることになります。
設計変更への対応遅延と追加コストの発生
建設工事では、施工段階で設計変更が必要になることがしばしばあります。主任技術者は、このような変更に対して技術的な観点から適切な判断を下す責任者です。常駐していない場合、変更への対応が遅れ、工事の停滞や追加コストが発生しやすくなります。
例えば、現場の状況と設計図面の不一致が発見された場合、主任技術者はその場で設計者や発注者との協議を行い、最適な解決策を提案することが求められます。不在の場合、この協議プロセスが遅延し、手戻り工事や工期延長の原因となることがあります。
また、設計変更に伴う見積もりや契約変更の技術的根拠を示す役割も主任技術者にあります。この対応が適切でないと、後になって費用精算の際にトラブルとなり、建設会社側が追加費用を負担せざるを得ない状況に陥ることもあります。
法令違反による行政処分と信用失墜
主任技術者の常駐義務を怠ることは、単なる運用上の問題ではなく建設業法違反となる可能性があります。違反が発覚した場合、建設会社に対する行政処分(営業停止処分等)が下されるリスクがあります。
特に公共工事においては、技術者の専任配置は入札・契約の重要な条件となっているため、違反が確認されると指名停止や契約解除といった厳しいペナルティを受けることになります。一度このような処分を受けると、その後の入札参加資格にも影響し、長期にわたって会社の受注機会が失われる可能性があります。
また、法令違反による処分は公表されるため、取引先や地域社会からの信用を大きく損なうことになります。建設業界では信用が何よりも重要な資産であり、これを失うことの経営的ダメージは計り知れません。
主任技術者が常駐しないことで発生しうるトラブル

主任技術者の不在は、以下のようなトラブルを引き起こす可能性があります。
- 施工不良の見逃しによる手戻り工事の発生
- 近隣住民との関係悪化と工事中断リスク
- 行政検査での不備指摘と是正命令の発行
- 重大事故発生時の法的責任問題
- 発注者との信頼関係崩壊と契約解除の可能性
それぞれ詳しく解説します。
施工不良の見逃しによる手戻り工事の発生
主任技術者の重要な役割の一つは、工事の各段階で品質確認を行うことです。常駐していない場合、これらの確認が適切なタイミングで行われず、施工不良が後になって発見されるケースが増えます。
例えば、鉄筋工事の配筋確認は、コンクリート打設前の重要な検査ポイントですが、主任技術者が不在の間に作業が進められ、配筋ミスやかぶり厚さの不足などが見逃されると、構造的な欠陥となる可能性があります。こうした問題が竣工後に発見されると、大規模な手直し工事が必要となり、膨大なコストと時間がかかります。
また、施工不良による手直し工事は単にコスト増加だけでなく、工期の大幅な遅延や、場合によっては建物の使用開始時期にも影響を与えるため、発注者との関係悪化にもつながります。適切なタイミングでの主任技術者による確認があれば防げたはずのトラブルだけに、その責任は重大です。
近隣住民との関係悪化と工事中断リスク
建設工事は必然的に騒音や振動、粉塵などを発生させるため、近隣住民との良好な関係維持は工事を円滑に進める上で非常に重要です。主任技術者は、近隣対応の責任者としての役割も担いますが、常駐していないと適切な対応ができません。
例えば、杭打ち工事や解体工事などの騒音が大きい作業を行う際には、事前に近隣住民への説明や作業時間の調整が必要です。主任技術者不在の状態でこれらが適切に行われないと、苦情が増加し、最悪の場合は住民の反対運動や行政指導により工事が中断される事態も起こり得ます。
また、工事中に予期せぬ事態(例えば地下水の湧出による周辺への影響など)が発生した場合、技術的知識を持った主任技術者が迅速に対応し説明することで住民の不安を解消できますが、不在の場合はこうした対応が遅れ、問題が拡大するリスクがあります。
行政検査での不備指摘と是正命令の発行
公共工事や一定規模以上の民間工事では、行政機関による立入検査が行われることがあります。こうした検査の際、主任技術者は施工管理の責任者として検査官の質問に答え、必要な書類や現場状況を説明する義務があります。
主任技術者が不在の場合、検査への対応が不十分となり、法令違反や安全管理体制の不備を指摘される可能性が高まります。例えば、建設業法に基づく技術者配置状況の確認、労働安全衛生法に基づく安全管理体制の確認などで不備が見つかると、是正命令や作業中止命令が出されることもあります。
特に重大な違反が見つかった場合は、会社に対する行政処分だけでなく、場合によっては工事自体の中止命令が出されるリスクもあります。一度このような処分を受けると、その後の入札参加資格にも影響するため、会社経営に与える影響は計り知れません。
重大事故発生時の法的責任問題
建設現場での事故、特に重大事故が発生した場合、主任技術者の責任が厳しく問われます。主任技術者は安全管理の最高責任者として、事故防止のための適切な指示や監督を行う義務があるためです。
主任技術者が常駐せず、適切な安全指導や危険箇所の点検が行われていない状態で事故が発生した場合、「安全配慮義務違反」として、民事上の損害賠償責任が発生する可能性があります。また、重大な過失があった場合には、業務上過失致死傷罪などの刑事責任を問われることもあります。
さらに、労働安全衛生法違反として会社や経営者、現場責任者が処罰される可能性もあります。事故による作業員のけがや最悪の場合の死亡事故は、被害者やその家族の人生を大きく変えるものであり、その責任の重さを考えれば、主任技術者の常駐による適切な安全管理の重要性は明らかです。
発注者との信頼関係崩壊と契約解除の可能性
発注者は、工事の適正な実施を確保するために、主任技術者による管理体制を重視しています。特に公共工事では、技術者の配置は契約上の重要な要件となっています。
主任技術者が常駐していないことが発注者に知られると、契約違反とみなされ、工事の続行に関する信頼関係が崩壊する恐れがあります。最悪の場合、契約解除や違約金の請求といった厳しい措置を取られる可能性もあります。
また、一度このような問題が発生すると、その発注者からの次回以降の受注機会を失うだけでなく、業界内での評判にも悪影響を及ぼし、長期的な経営ダメージにつながります。建設業は信用産業であり、一度失った信頼を取り戻すことは非常に困難です。
まとめ
主任技術者の常駐は、単なる法令順守の問題ではなく、工事の品質確保や安全管理、トラブル防止のために不可欠な要素であることがわかりました。法令上は一定の条件下で緩和措置も認められていますが、それはあくまで適切な代替管理体制が構築できる場合に限られます。
主任技術者が常駐しないことで生じるデメリットは多岐にわたり、施工品質の低下、安全管理体制の脆弱化、様々なトラブル発生リスクの増大など、工事全体に深刻な影響を及ぼします。また、法令違反による行政処分や信用失墜といった企業経営上のリスクも看過できません。
建設会社にとって、主任技術者の適切な配置と現場管理体制の構築は、短期的なコスト増と捉えるのではなく、長期的な品質確保と企業価値向上のための重要な投資と考えるべきでしょう。工事の規模や特性に応じた適切な技術者配置を行い、安全で品質の高い建設工事を実現することが、建設業の健全な発展につながります。