
建設キャリアアップシステムは、建設業界の技能者の経験や資格を登録・蓄積する仕組みとして2019年に運用が開始されました。このシステムは、建設技能者のキャリアを可視化し、処遇改善や人材育成を目指す取り組みです。
しかし、導入から数年が経過した現在、システムの有効性や運用面での課題が指摘されています。特に、現場での活用方法や費用負担の問題など、様々な課題が浮き彫りになってきました。本記事では、建設キャリアアップシステムの課題と今後の可能性について詳しく解説します。
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目次
「建設キャリアアップシステムは無駄」と言われる5つの理由
建設業界から、建設キャリアアップシステムへの否定的な意見が出る背景には、以下の5つの要因があります。これらの課題について、具体的な事例を交えながら詳しく見ていきましょう。
- 導入・運用コストの負担
- 現場での使いづらさ
- 技能者の登録意欲の低さ
- 効果の見えにくさ
- 既存システムとの重複
事業者・技能者への高額な費用負担
建設キャリアアップシステムの最大の課題は、導入・運用にかかる費用負担です。事業者登録料は会社規模に応じて数万円から十数万円が必要となり、さらに現場登録料として1現場あたり1万円程度が必要です。
技能者個人にも負担が生じます。技能者登録料として1人あたり2,500円から1万円が必要で、カードの発行料や更新料も別途かかります。これらの費用は、特に小規模事業者や若手技能者にとって大きな負担となっています。
また、カードリーダーの設置費用や通信費用など、システムを運用するための継続的な費用も発生します。これらの費用に見合うだけの効果が実感できないという声も多く聞かれます。
現場での煩雑な運用手続き
現場での運用面では、カードタッチによる入退場管理が大きな課題となっています。朝夕の混雑時に読み取り作業で渋滞が発生したり、カードの忘れや読み取りエラーへの対応に時間がかかったりするケースが報告されています。
特に、複数の現場を移動する技能者にとって、その都度のカードタッチは業務の効率を低下させる要因となっています。また、小規模な現場では、カードリーダーの設置場所の確保や電源の確保なども課題となっています。
データ入力や管理の手間も増えており、現場管理者の業務負担が増加しているという指摘もあります。
技能者の登録意欲の低さ
システムへの登録は任意であり、技能者の参加意欲が低いという問題があります。経験や資格を登録することの意義が十分に理解されておらず、面倒な手続きと費用負担を避けたいという意識が強く見られます。
特に、高齢の技能者や外国人技能者の中には、システムの理解や操作に困難を感じる人も多く、登録を敬遠する傾向があります。また、登録しても具体的なメリットが見えにくいという声も多く聞かれます。
登録手続きの複雑さも課題となっています。必要書類の準備や本人確認、資格証明書の提出など、手続きの煩雑さが登録意欲を低下させる要因となっています。さらに、技能者の中には、個人情報の登録や経歴の開示に対する不安を感じる人もいます。
既存の管理システムとの重複
多くの建設会社では、すでに独自の労務管理システムや技能者台帳を運用しています。建設キャリアアップシステムの導入により、既存システムとの二重管理が必要となり、業務の効率が低下するという指摘があります。
データの互換性や連携の問題も大きく、既存システムのデータを建設キャリアアップシステムに移行する際の手間や、日々の運用における二重入力の問題が指摘されています。
特に、大手建設会社では長年かけて構築した独自のシステムがあり、そこに蓄積されたデータの移行作業には多大な時間と労力が必要です。また、協力会社との情報共有システムも確立されており、新たなシステムの導入が混乱を招くケースも報告されています。
現場での作業員名簿や出面管理など、基本的な労務管理機能も重複することが多く、現場担当者の負担増加につながっています。さらに、システム間でのデータ連携が十分でないため、同じ情報を複数回入力する必要があり、入力ミスのリスクも高まっています。
即効性のある効果が見えにくい
システム導入の効果が、短期的には実感しづらいという課題があります。技能者の処遇改善や人材育成といった目的は、長期的な取り組みが必要であり、即座に効果を実感することは難しい状況です。
また、システムの普及率が十分でないため、業界全体での活用メリットが発揮されていないという指摘もあります。投資に見合う効果が得られるまでに時間がかかることへの不安も、否定的な意見の一因となっています。
現時点では、登録情報を活用した具体的な処遇改善事例が少なく、システム導入の効果を数値化することも困難です。技能者の給与アップや待遇改善につながった事例も限定的で、モチベーション向上や定着率の改善といった効果も、まだ明確には現れていません。
さらに、発注者側のシステム活用も進んでおらず、総合評価方式の入札などでシステム活用が評価される機会も限られています。このため、システム導入による受注機会の増加といった直接的なメリットも実感しづらい状況が続いています。
そもそもなぜ?建設キャリアアップシステムが生まれた背景
建設キャリアアップシステムは、建設業界が直面する深刻な課題に対応するために導入されました。建設技能者の高齢化が進む中、若手入職者の減少が続いており、将来的な技能者不足が懸念されています。
このような状況を改善するため、技能者の処遇改善と人材確保が急務となっています。しかし、これまで技能者の経験や資格を客観的に評価する仕組みがなく、適切な処遇につながりにくい状況でした。
また、建設業界の重層下請構造により、技能者の所属や経験が把握しづらく、適切な評価や育成が難しいという課題もありました。さらに、社会保険未加入対策や、外国人技能者の増加に伴う労務管理の適正化も必要とされています。
このような背景から、技能者の資格や経験を統一的に蓄積・評価し、処遇改善につなげるためのインフラとして、建設キャリアアップシステムの構築が進められることになりました。
建設キャリアアップシステムが無駄ではない4つの理由

システムへの否定的な意見が多い一方で、長期的な視点では重要な意義があります。以下の4つの観点から、システムの必要性と効果について解説します。
- 技能者の客観的評価基準の確立
- 処遇改善の具体化
- 現場管理の効率化
- 業界全体の生産性向上
技能者の評価基準が明確になる
建設キャリアアップシステムでは、技能者の経験と資格を客観的に評価できます。システムに登録された就業履歴や保有資格を基に、技能者を4段階のレベルで評価します。これにより、技能者の能力を公平に評価する基準が確立されます。
特に、これまで評価が難しかった現場経験の蓄積が、就業履歴として明確に記録されます。また、技能者の保有資格や講習受講歴なども一元管理され、技能者の総合的な能力を示す指標となります。
この評価基準により、技能者自身のキャリアプランも立てやすくなります。次のレベルに上がるために必要な資格や経験が明確になり、目標を持って技能向上に取り組むことができます。
具体的な処遇改善の指標となる
システムによる技能者の評価は、給与や待遇の改善に直接結びつきます。技能レベルに応じた賃金の目安が示されることで、適切な処遇の実現が期待できます。
また、社会保険への加入状況も確認できるため、法令遵守の面からも技能者の待遇改善を促進します。特に、若手技能者にとって、将来の処遇が見える化されることは、職業選択の重要な判断材料となります。
さらに、優秀な技能者の確保・育成に取り組む企業が評価される仕組みも整備されつつあります。公共工事の総合評価方式において、システムの活用度が加点対象となるケースも増えています。
効率的な現場管理が実現する
建設キャリアアップシステムの導入により、現場の入退場管理が自動化され、労務管理の効率化が図れます。カードタッチによる記録は、正確な就業時間の管理を可能にし、残業時間の把握も容易になります。
また、技能者の資格情報がシステムで確認できるため、現場での資格確認作業が簡略化されます。これまで紙ベースで行っていた各種記録も、システムによるデジタル管理に移行することで、書類作成の手間が削減されます。
さらに、現場での施工体制の確認や作業員名簿の作成なども、システムのデータを活用することで効率化が可能です。
建設業界全体の生産性向上につながる
システムの普及により、業界全体の生産性向上が期待できます。技能者情報のデジタル化により、人材配置の最適化や教育訓練の効率化が可能になります。
また、蓄積されたデータを分析することで、将来的な人材需要の予測や、効果的な人材育成計画の立案にも活用できます。建設業界全体の技能者育成や労働環境改善に向けた取り組みの基礎データとしても重要な役割を果たします。
さらに、建設技能者の社会的地位の向上にもつながり、若手入職者の増加や人材確保にもプラスの効果が期待できます。
建設キャリアアップシステムは今後どうなるのか
建設キャリアアップシステムは、2024年度からの本格運用開始を目指しています。政府は、公共工事においてシステムの活用を段階的に義務化する方針を示しており、民間工事でも普及が進むと予想されます。
システムの改善も継続的に行われており、使いやすさの向上や費用負担の軽減策も検討されています。また、既存の労務管理システムとの連携強化や、データ活用の拡大なども進められています。
今後は、建設業界のデジタル化推進の中核として、さらなる機能拡充が期待されています。特に、人材育成や技能継承の面での活用が注目されており、建設業界の構造改革を支える重要なインフラとしての役割が期待されています。
まとめ
建設キャリアアップシステムは、導入初期の課題を抱えながらも、建設業界の将来に向けた重要なインフラとして位置づけられています。短期的には様々な課題がありますが、長期的な視点では業界全体にとって必要不可欠なシステムといえます。
今後は、システムの改善と普及促進により、技能者の処遇改善や人材確保、生産性向上といった効果が徐々に現れてくることが期待されます。建設業界の持続的な発展のため、システムの活用を前向きに検討することが重要です。