建築模型とは、住宅や各種施設のミニチュア模型のことを指します。
外観などの完成形を、発泡スチロール、粘土、プラスチック、木材などの素材を利用して製作します。
建築模型を活用する事によって、紙の上での図面やパースではなかなか理解しづらい箇所も確認でき、その目的によってさまざまな用途に活用できます。
競争の激しい住宅業界では営業プレゼンの大きな武器になり、建築の専門家やデザイナーにとってはイメージを具現化し検証する作業に有効です。
この記事では、建築模型を専門に製作する「建築模型士」の仕事内容と働き方、想定される年収とその需要について解説します。
建築模型士は、まったくのゼロベースでも始められる仕事ですので、建築に興味がありデザインや設計補助としての転職を考えている方や、副業としての模型製作を考えている方にとっても非常に役に立つ情報です。ぜひ最後までお読みください。
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目次
建築模型士とは?
建築模型士とは、顧客から依頼を受けて建築模型を製作する職業のことです。
ここでは想定される模型の種類と、建築模型士に向いている人の特徴について解説します。
建築模型の種類
建築模型士が扱う模型の種類と、その用途には下記のものがあります。
プレゼン模型
主に建設会社や設計事務所が受注を獲得するための、顧客向けプレゼンテーション用の模型です。紙の図面やCGパースでは伝わらない、手作りの熱意をアピールできます。
特に注文住宅の分野では、模型を受け取った施主の感動のひと押しで受注が決まることも少なくありません。
建築模型士に求められるものは、多くはこのプレゼン模型になります。
スタディ模型
デザイナー系の設計事務所や建築家が、設計上の納まりの検証や見え方のチェックに用いるものです。
三次元CADによるモデリングやCGパースの技術も発展していますが、実態としての形態や物と物の重なり具合を確認する上では、実物の縮小版である模型に勝るものはありません。
コンペティション(競技設計)でのプレゼンテーション時に、審査員へ設計上の利点を説明するために製作されることもあります。
展示模型
大型の展示施設や商業施設などのロビーに施設案内用として展示されるものです。
現在地と施設の規模や構成を立体的に説明する事ができ、平面図面よりも瞬時にイメージしやすくなります。
また、建設会社の施工実績のアピールのために過去施工物件のミニチュア展示模型を飾る場合もあります。
プレゼン模型よりもさらに精細かつ高級な質感での製作が求められるため、一般的には専門の造形会社へ製作が依頼されますが、高スキルの建築模型士が直接受注するケースもあります。
プレゼン模型やスタディ模型と比較して案件数は少なくなりますが、高単価が狙える分野です。
構造模型
建物の外観では分からない、構造骨組みを見せるための模型です。
特に木造や鉄骨造など、細長い線材を現地で組み合わせて施工するタイプの建物の構造を、棒状の木材やプラスチック材料の組み合わせで表します。
個々の物件ごとに製作されることは稀で、住宅や施設の施工会社が自社の独自構造による耐震性能を顧客に説明するときなどに用いられます。
建築模型士に向いている人
建築模型士には、模型を製作するというモノづくりの達成感と、提出先のお客様の心に響いて受注やプレゼンテーションが上手く行ったときの達成感の両面の充実感が得られます。
ここでは、建築模型士に向いている人の特徴と、必要とされる能力について説明します。
二次元を見て三次元をイメージできる
建築模型は、クライアントから受領した二次元の平面図や立面図から、自らの頭の中で三次元をイメージし組み立てる仕事です。
まずは図面から実際の出来上がりを想起できるように、空間認識能力を訓練する必要があります。
建築に関する特別な教育を受けなくとも、実際の建物の成り立ちを意識して観察するだけでも空間認識の能力は磨けるものです。
実際に模型を作るにあたっては、分割し貼り合わせるパーツ構成と組み立てる順序を自分で考えなければなりません。そのためのパズル能力や論理的思考力も必要とされます。
精細作業が得意
建築模型は、スケールによっては数ミリ幅のパーツの切断や貼り合わせが要求されます。
手先が器用であるのに越したことはありませんが、慣れや練習によって克服することも可能です。
それよりも、精細な作業を長時間継続できる集中力のほうが大事です。特に在宅で仕事をする場合は家族構成や家庭環境にも影響を受けますので、集中できる環境を整備することも必要です。
スケジューリング能力
建築模型は、時間を掛ければ掛けただけ完成度が上がる世界です。
自己満足に走らずに、顧客が求める納期と品質から逆算してスケジュールを組める管理能力が必要とされます。
コミュニケーション能力
顧客のニーズを汲み取ることは当然必要ですが、顧客が模型をプレゼンテーションする相手の心に響くような建築模型が製作できるようになると、より喜ばれ受注も増えることになります。
それには、模型で強調する事や伝えたいこと、提出する相手の情報などを聞き取る仕事上のコミュニケーション能力も要求されます。
指示の中には建築の専門用語も出てきますので、それを理解するために建築用語集などで学習すると良いでしょう。
建築模型士に資格は必要?
建築模型の製作において、業務として報酬を受け取るための資格は不要です。
建築模型士には、建築士のような国家資格制度は存在しません。
あくまでプレゼンテーション用の模型の製作であり、実際の人の生活環境や健康に影響を与えるものではないためです。
模型製作の技術は、工業高校や専門学校、大学の専門課程の実習課題として習得するか、設計事務所やハウスメーカーに勤務しながらの実務として技能を習得するのが一般的です。
通信教育などの民間講座もあり、受講すると修了証が発行されます。
民間資格の取得は模型の製作に必須ではなく、資格があるからと言って転職や仕事の受注に大きく有利になるとは限りません。
ただし、未経験者が建築模型の製作方法を学び、習得した知識や技術レベルを評価するという意味では、意義があることと言えます。
建築模型士の働き方は?
建築模型士として活動するには、企業に勤務し業務の一環として模型製作をする場合と、フリーランスとして個別の案件を受注製作するふたつのケースが想定されます。
企業に勤務
企業勤務の場合は、模型製作に特化することは考えにくく、設計補助業務の一部として建築模型を製作する事がほとんどです。
特にハウスメーカーや注文住宅を取り扱う工務店で住宅模型を製作する機会が多くありますので、高レベルの模型製作技能があると重宝されます。
また、デザイナー系設計事務所のコンペティション要員としての模型製作スタッフという枠も存在します。ただし、これはデザイナーや建築家としての修業的側面が強く、将来的な目標が無いとなかなか務まらない業務になります。
フリーランス
一定の建築模型製作技能を身に付けると、複数の建築会社や設計事務所から模型製作を委託受注するフリーランスとしての道も拓けます。
模型の委託製作は、時給換算での支払いと案件単価の二種類があります。時給換算での支払いは設計補助アルバイトとしての給与となりますので、高収入を目指すのであれば案件ごとの受注とするのが望ましいでしょう。
相場としては、1/100スケールの住宅模型で3〜5万円ですが、スキルアップし実際の案件受注につながる模型が提供出来るようになると、さらに高単価も見込めます。
また、初期投資が少なく時間の自由が効くため、会社員の副業としても大きな可能性があります。
建築模型士としての独立に必要な初期投資(参考)
【製作道具】
- PC(CADが動くスペックは必要)
- CADソフト(Jw_cad等のフリーソフトでも化)
- プリンター(線が精細に出るレーザープリンターがおすすめ)
- カッター(鋭角)
- カッターマット
- マスキングテープ
- スチロールカッター
- アクリルカッター
【消耗材料】
- スチレンボード(両面紙張り)
- ケント紙
- バルサ材
- スタイロフォーム
- アクリル板
- 各種接着剤(スチのり、スプレーのり、木工ボンド、瞬間接着剤)
- カラースプレー(模型用アクリル系)
- 人物、樹木ミニチュア
PCおよびプリンターを所有していれば、他の道具や消耗品はそれほど大きな投資にはなりません。一式そろえたとしても数万円でしょう。
建築模型士の給料・年収
ハウスメーカーや工務店、設計事務所で他の設計補助業務と兼務で模型製作をする場合は、厚労省の賃金調査区分では「製図その他生産関連・生産類似作業従事者」に分類されます。
「製図その他生産関連・生産類似作業従事者」(一般) | 参考 | ||
従業員10人以上の企業 | 従業員1000人以上の企業 | 全産業合計 | |
年収 | 4,624.4千円 | 5,398.5千円 | 4,893.1千円 |
平均年齢 | 42.2歳 | 41.9歳 | 43.4歳 |
平均勤続年数 | 12.0年 | 11.1年 | 12.3年 |
月間所定内実労働時間数 | 168時間 | 163時間 | 165時間 |
月間超過実労働時間数 | 16時間 | 15時間 | 11時間 |
月間給与額 | 320.4千円 | 359.3千円 | 334.8千円 |
年間賞与額 | 779.6千円 | 1086.9千円 | 875.5千円 |
「製図その他生産関連・生産類似作業従事者」(短時間) | 参考 | ||
従業員10人以上の企業 | 従業員1000人以上の企業 | 全産業合計 | |
年収 | 2,601.0千円 | 2,959.2千円 | 1,663.1千円 |
平均年齢 | 46.8歳 | 40.9歳 | 45.7歳 |
平均勤続年数 | 9.7年 | 6.4年 | 6.2年 |
実労働日数 | 18.0日 | 20.7日 | 14.7日 |
1日当たり所定内実労 働時間数 | 6.4時間 | 7.2時間 | 5.1時間 |
1時間当たり所定内給与 額 | 1,759円 | 1,601円 | 1,384円 |
年間賞与その他特別給与 額 | 169.4千円 | 95.9千円 | 41.8千円 |
勤務する企業規模にもよりますが、模型製作が企業内での設計補助業務となる場合は、建築士などの有資格者ではないため平均的な年収に留まります。
ただし、短時間勤務の場合では「1時間当たり所定内給与額(≒時給)」が比較的高く、アルバイトやパートとしての需要が強く、好待遇を受けることが読み取れます。
また、フリーランスの建築模型士として独立し生活に十分な収入を得るためには、模型製作のスキルやスピードだけでなく、安定して受注するための多方面への営業力も必要となります。
模型製作と並行して営業活動を行うことは非常にハードルが高く、クラウドソーシングなどに登録し営業や事務手続きを代行してもらうなどの工夫も必要です。
建築模型士の需要
転職・就職市場においては「建築模型士」としての求人はほとんど無く、あくまで「設計補助・支援事務」としての求人になります。
参考に、令和4年8月の厚生労働省の調査では、設計補助・支援事務が分類される「生産関連・生産類似の職業」の有効求人倍率が0.96倍(パート含む常用)、0.45倍(常用的パート)となっています。
産業全体と比較して低い数字に留まっており、これは長く続ける人が多いため新規の需要がなかなか無いことを表しています。
まずは設計事務所やハウスメーカー・工務店に就職し、その業務の中で模型製作に携わることが現実的と言えます。
建築模型士の将来性
建築設計の分野でもDX化が進んでおり、建築模型が使用される場面は少なくなりつつあります。
それでも、手作業の労力が生み出す質感と熱意には一定の需要があり、建築模型士の需要は残り続けます。
ただし、建築模型士だけで生計を立てられるのはごく一握りですので、CGパースや営業プレゼンテーションの作成など、設計支援業務全般のスキルを高めることが重要です。
また、3DCADによるモデリングや3Dプリンター出力の新技術を取り入れて建築模型と複合提案することには大きな可能性があります。新たな技術の習得にも取り組みましょう。
まとめ
ここまで建築模型士について、その製作する模型の種類と必要とされる要素、建築業界での需要と想定される年収などを解説してきました。
DX化が進んだ世の中でも、手作りの建築模型の需要は残り続け、製作技能を持つ建築模型士の存在はますます稀少になって行くでしょう。
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