
「電気通信工事施工管理技士を取るメリットは?」
「資格試験の内容や難易度は?」
「資格を取ると転職に有利になる?」
電気通信工事施工管理技士についてのこのような疑問にお応えします。
今や携帯電話とインターネットは毎日の生活に不可欠であり、あらゆる施設で有線・無線の通信設備の整備が進められています。
電気通信工事施工管理技士は、携帯電話やインターネット等を使えるようにする電気通信工事の施工管理をする仕事です。
今後、電気通信分野がなくなることは考えにくいため、電気通信工事施工管理技士は安定した需要が続くと言えるでしょう。
この記事では電気通信工事施工管理技士について、資格試験の概要から難易度、取得のメリットまで気になる情報をくわしく解説していきます。ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください。
電気通信工事施工管理技士とは?

はじめに、電気通信工事施工管理技士の基本知識について確認していきましょう。
2019(令和元)年に新設
電気通信工事施工管理技士は、2019(令和元)年に新たな施工管理技士資格として新設されました。電気通信工事を行う技術者が、工事現場で工程管理、品質管理、安全管理などを行うための資格です。
施工管理技士資格が新設されたのは30年ぶりです。新設された背景には、通信設備、ネットワーク設備、情報設備など電気通信に関わる需要が大幅に増加してきたことが挙げられます。
2021(令和3)年に施工管理技士試験が改定
施工管理技士の資格は「建築」「土木」「電気工事」「管工事」「造園」「建設機械」「電気通信工事」の7種類があります。
施工管理技士の資格を取得しなければ施工管理ができない訳ではありませんが、資格を取得していれば現場での仕事の幅が広がってきます。
2021年(令和3)年に、施工管理技士の試験制度が大きく改定されました。改定内容は以下の通りです。
改定前 | 学科試験+実地試験→施工管理技士 |
改定後 | 第一次検定→技士補→第二次検定→施工管理技士 |
改定前は、学科試験と実地試験に合格しなければ施工管理技士にはなれませんでしたが、改定後は、第一次検定に合格すると「技士補」となることができます。その後、第二次検定に合格して晴れて施工管理技士になれます。
また、2019(令和元)年6月には、建設業法が改正されました。改正内容(一部)は以下の通りです。
改正前 | 現場ごとに専任の監理技術者が必要 |
改正後 | 監理技術者補佐を専任で現場に置いた場合は、監理技術者は2つの現場まで兼務が可能 |
建設業法の改正前は、現場ごとに専任の監理技術者を配置しなくてはなりませんでしたが、改正後は、監理技術者補佐を専任で置いた場合、監理技術者は2つまで現場を兼務できます。
施工管理技士の第一次検定に合格した技士補は、監理技術者補佐として現場に配置できます。その結果、監理技術者は2つまで現場を兼務することが可能になりました。
この施工管理技士試験制度の改定と建設業法の改正の目的は、技術者不足を補って監理技術者が担当できる現場数を確保することです。主任技術者と監理技術者については、後ほどくわしく説明します。
電気通信工事施工管理技士を取得するメリット

電気通信工事施工管理技士を取得すると、以下のようなメリットが得られます。
- 営業所に必要な「専任技術者」になれる
- 現場に必要な「監理技術者」「主任技術者」になれる
- 経営事項審査において所属企業の得点に加算される
順番に解説していきましょう。
営業所に必要な「専任技術者」になれる
建設会社が電気通信工事業を営む場合、500万円未満の軽微な工事を除いて、国土交通省大臣または都道府県知事から建設業の許可を受けなければなりません。
建設業の許可は、下請契約の規模により「特定建設業許可」と「一般建設業許可」に区分して工事の種類ごとに行われます。「特定建設業許可」と「一般建設業許可」の違いを簡単に示すと以下のとおりです。
特定建設業許可 | 一般建設業許可 | |
元請として請け負った工事を下請に出す場合の工事代金 | 4,000万円以上(建築一式工事の場合は6,000万円以上) | 4,000万円未満(建築一式工事の場合は6,000万円未満) |
建設業の許可を受けると、営業所ごとに「専任技術者」を配置しなければなりません。「専任技術者」は国家資格保持者、または一定の実務経験年数がある者に限られます。
電気設備工事施工管理技士は国家資格に該当するため「専任技術者」として従事できます。
現場に必要な「監理技術者」「主任技術者」になれる
電気設備工事施工管理技士を取得した場合、該当工事現場の「監理技術者」および「主任技術者」になることができます。
元請の建設会社が、特定建設業許可が必要な4,000万円以上(建築一式の場合6,000万円以上)の下請契約を行った場合、工事現場に「監理技術者」を配置しなければなりません。
また、「監理技術者」の配置が必要な工事を除く全ての工事現場には「主任技術者」を配置しなければなりません。
このように、電気通信工事施工管理技士は、工事現場における施工管理上の技術責任者として、高く位置づけられています。
ここまでお伝えしてきた「専任技術者」「監理技術者」「主任技術者」の3種類について、以下の表でおさらいしてみましょう。
専任技術者 | 監理技術者 | 主任技術者 | |
配置 | 営業所 | 現場 | |
資格要件 | 【特定建設業許可】 1級資格保持者 指導監督経験者 | 【特定建設業許可】 1級資格保持者 指導監督経験者 | 【一般建設業許可】 1・2級資格保持者 実務経験者 |
【一般建設業許可】 1・2級資格保持者 実務経験者 | |||
雇用関係 | 常勤できれば出向社員でも可 | 直接的かつ恒常的な雇用関係で出向社員は不可 |
1級電気通信工事施工管理技士の資格を取得すると、営業所ごとに配置する「専任技術者」および現場に配置する「主任技術者」「監理技術者」として認められます。
2級電気通信工事施工管理技士の資格であれば、一般建設業の許可を受ける際に必要な「専任技術者」および「主任技術者」として認められます。
経営事項審査において所属企業の得点に加算される
国や自治体が、公共工事を建設会社に発注する際には「経営事項審査」があります。「経営事項審査」とは、建設会社の信用度を定量的に点数化して事前に審査するものです。
請け負った建設会社の社員のうち、電気通信工事施工管理技士の取得者数が「経営事項審査」の評価対象の一つになっています。
「経営事項審査」は、公共工事入札の際に建設会社の技術力が評価されるため、資格を取得すれば大きく貢献することができます。
電気通信工事施工管理技士の業務内容

電気通信工事とはどのような業務があるのでしょうか。ここからは電気通信工事の中で代表的なものを紹介します。
有線LAN工事
有線LAN工事は、インターネット環境を整備する工事です。LAN回線を建物の外から中に引き込むことや、建物内では配線を工夫しながらパソコンやプリンター機器などに接続していきます。
無線LAN工事
無線LAN工事は、無線設備(Wi-Fi)をあらゆる場所に設置する工事です。無線設備の設置には高所作業もあります。
電話工事
電話工事は、電話設備の新設、増設、移設をする工事です。建物内の工事だけではなく、建物外においても電柱から電話線を引き込むこともあります。
最近では、インターネット回線と電話回線を併用した電話機もあり、新たな知識も必要になってきます。
テレビ放送設備工事
テレビ放送設備工事は、テレビを見られるようにする工事です。アンテナの設置、ケーブルの引き込みなどを行います。
放送機械設備工事
放送機械設備工事は、放送設備環境を整備する工事です。例えば、マイク、アンプ、スピーカー、AV機器設備、非常放送設備などがあります。
その他の弱電設備工事
その他の弱電設備工事は、文字通り弱い電気を使う設備環境を整備する工事です。例えば、防犯カメラ、火災報知器、インターホン、セキュリティゲートなどがあります。
電気通信工事施工管理技士の試験概要

ここからは、電気通信工事施工管理技士の試験概要についてくわしく解説していきます。
※令和4年度実施の試験に基づいています
試験場所
一次検定 | 札幌、仙台、東京、新潟、金沢、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、熊本、那覇 |
二次検定 | 札幌、仙台、東京、新潟、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、那覇 |
受験料
- 一次検定:13,000円
- 二次検定:13,000円
試験科目と出題内容
1級電気通信工事施工管理技士
第一次検定 | |
出題科目 | 出題内容 |
電気通信工学など | 1.電気通信工事の施工に必要な電気通信工学、電気工学、土木工学、機械工学および建築学に関する知識を有すること 2.有線電気通信設備、無線電気通信設備、ネットワーク設備、情報設備、放送機械設備などに関する一般的な知識を有すること 3.設計図書に関する一般的な知識を有すること |
施工管理法 | 電気通信工事の施工計画の作成方法および工程管理、品質管理、安全管理など工事の施工の管理方法に関する一般的な知識を有すること |
法規 | 建築工事の施工に必要な法令に関する一般的な知識を有すること |
第二次検定 | |
出題科目 | 出題内容 |
施工管理法 | 設計図書で要求される電気通信設備の性能を確保するために設計図書を正確に理解し、電気通信設備の施工図を適正に作成し、および必要な機材の選定、配置などが適切に行うことができる高度の応用能力を有していること |
2級電気通信工事施工管理技士
第一次検定 | |
出題科目 | 出題内容 |
電気通信工学など | 1.電気通信工事の施工に必要な電気通信工学、電気工学、土木工学、機械工学および建築学に関する概略の知識を有すること 2.有線電気通信設備、無線電気通信設備、放送機械設備などに関する一般的な知識を有すること 3.設計図書を正確に読み取るための知識を有すること |
施工管理法 | 電気通信工事の施工計画の作成方法および工程管理、品質管理、安全管理など工事の施工の管理方法に関する概略の知識を有すること |
法規 | 建設工事の施工に必要な法令に関する概略の知識を有すること |
第二次検定 | |
出題科目 | 出題内容 |
施工管理法 | 設計図書で要求される電気通信設備の性能を確保するために設計図書を正確に理解し、電気通信設備の施工図を適正に作成し、および必要な機材の選定、配置などを適切に行うことができる一応の応用能力を有すること |
受験資格と実務経験
1級電気通信工事施工管理技士
学歴または資格 | 受験に必要な実務経験年数 | ||
指定学科※ | 指定学科以外 | ||
大学 専門学校「高度専門士」 | 卒業後3年以上 | 卒業後4年6ヶ月以上 | |
短期大学 高等専門学校 専門学校「専門士」 | 卒業後5年以上 | 卒業後7年6ヶ月以上 | |
高等学校 中等教育学校 専門学校(専門士以外) | 卒業後10年以上 | 卒業後11年6ヶ月以上 | |
その他 | 卒業後15年以上 | ||
2級第二次検定合格者 | 合格後5年以上 | ||
2級第二次検定合格後5年未満 | 高卒 | 卒業後9年以上 | 卒業後10年6ヶ月以上 |
その他 | 卒業後14年以上 |
※指定学科とは、電気通信工学、電気工学、土木工学、都市工学、機械工学、建築学に関する学科を指します。
2級電気通信工事施工管理技士
学歴など | 受験に必要な実務経験年数 | |
指定学科※ | 指定学科以外 | |
大学 専門学校「高度専門士」 | 卒業後1年以上 | 卒業後1年6ヶ月以上 |
短期大学 高等専門学校 専門学校「専門士」 | 卒業後2年以上 | 卒業後3年以上 |
高等学校 中等教育学校 専門学校(専門士以外) | 卒業後3年以上 | 卒業後114年6ヶ月以上 |
その他 | 卒業後8年以上 | |
電気通信事業法による 電気通信主任技術者資格者証の 交付を受けた者 | 卒業後1年以上 |
※指定学科とは、電気通信工学、電気工学、土木工学、都市工学、機械工学、建築学に関する学科を指します。
電気通信工事施工管理技士の合格率からみる難易度
過去3年間の電気通信工事施工管理技士の合格率から難易度をみてみましょう。
1級電気通信工事施工管理技士
実施年度 | 区分 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2019(令和元)年 | 学科試験 | 13,538人 | 5,838人 | 43.1% |
実地試験 | 5,781人 | 2,860人 | 49.5% | |
2020(令和2)年 | 学科試験 | 8,532人 | 4,190人 | 49.1% |
実地試験 | 6,707人 | 3,307人 | 49.3% | |
2021(令和3)年 | 第一次検定 | 8,076人 | 4,730人 | 58.6% |
第二次検定 | 6,147人 | 1,852人 | 30.1% |
2級電気通信工事施工管理技士
実施年度 | 区分 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2019(令和元)年 | 学科試験 | 7,015人 | 4,045人 | 57.7% |
実地試験 | 3,514人 | 2,007人 | 57.1% | |
2020(令和2)年 | 学科試験 | 3,848人 | 2,332人 | 63.9% |
実地試験 | 3,240人 | 1,391人 | 42.9% | |
2021(令和3)年 | 第一次検定 | 2,568人 | 1,807人 | 70.4% |
第二次検定 | 4,725人 | 1,420人 | 30.1% |
過去3年間では1級・2級ともに「第一次検定」(2020(令和2)年までは学科試験)の合格率は上昇していますが、「第二次検定」(2020(令和2)年までは実地試験)の合格率が低くなる傾向が見られます。
1級の「第一次検定」の平均合格率は約49%、「第二次検定」の平均合格率は約43%です。また、2級の方が合格率は高くなっています。1級・2級ともにしっかりと勉強すれば合格することは決して難しい資格ではないでしょう。
電気通信工事施工管理技士と似ている資格との違い
電気通信工事施工管理技士と似ている資格に「電気工事施工管理技士」と「電気通信主任技術者」があります。3つの資格の業務内容を下の表で確認してみましょう。
資格 | 業務内容 |
電気通信工事施工管理技士 | 建物への情報設備、ネットワーク設備などの電気通信設備の工事を管理する |
電気工事施工管理技士 | 建物への受電設備、照明設備などの電気工作物の工事を管理する |
電気通信主任技術者 | 建物内の電気通信設備が、常に問題なく使用することができる環境を維持する |
電気通信工事施工管理技士と電気工事施工管理技士との違い
【電気通信工事施工管理技士】
電気通信工事施工管理技士は、情報設備やネットワーク設備などの小さい電気設備を取り扱います。
【電気工事施工管理技士】
電気工事施工管理技士は受電設備や照明設備などを取り扱うため、作業範囲が大きくなります。
同じ電気に関係する工事であっても、作業範囲に大きな違いがあると言えます。
電気通信工事施工管理技士と電気通信主任技術者との違い
電気通信工事施工管理技士は、電気通信設備を新たに作ることが主な仕事となります。
【電気通信主任技術者】
電気通信主任技術者は、すでに建物内に設置されている電気通信設備が正常に使えるように維持・監理する仕事です。
同じ電気通信設備に関わる資格であっても、役割に大きな違いがあると言えます。
電気通信工事施工管理技士の年収

電気通信工事施工管理技士の年収は400万~600万円程度となっています。
電気工事施工管理技士も同程度の水準と言えます。
ただし、実務経験を重ねることで年収を上げていくことは可能です。また、別の資格を取ったり、転職をしたりして上げていくこともできます。
電気通信工事施工管理技士の仕事は需要があるため、実務経験を積んでいけば企業からのニーズはますます増えていくでしょう。
電気通信工事施工管理技士の転職の可能性
急速な電気通信業界の発展により、電気通信工事の技術者は人手が不足しています。電気通信工事施工管理技士は、新設されたばかりで有資格者が少ないため、資格保有者は転職で有利になります。
しかし、資格保有者でないと転職できないわけではありません。求人情報には未経験者でも転職できる会社があります。研修がしっかりしている会社を選べば、実務経験を積むことができるでしょう。
まとめ
この記事では電気通信工事施工管理技士の仕事や転職について紹介しました。
これからの電気通信業界は、インターネットの高速化や5Gの普及など急速な環境変化が予測されます。
建設業界全体で人手が足りない中で、新しい資格である電気通信工事施工管理技士はより不足しており、今後継続して高い需要があるでしょう。
将来の活躍の場として、電気通信工事施工管理技士への挑戦を考えてみてはいかがでしょうか。